
いわき市には、認知症疾患医療センターが3つあります。そのうちのひとつが、四倉町にある四倉病院です。精神科の単科病院として、214床のうち60床を認知症の病棟にあて、比較的症状の重い方を受け入れてきました。
院長の石福行人(いしふく ゆきひと)先生に、この病院が大事にしてきたこと、三十年で変わったこと、そして、これから先のことについて伺いました。

父が開いた病院に、戻ってきた
――まず、先生ご自身のご経歴から教えてください。
磐城高校を出まして、昭和62年に杏林大学の医学部を卒業しました。平成6年あたりにいわきに戻ってきて、それからずっとここで暮らし、働いているという感じです。
生まれは昭和37年の1月。実は生まれたのは札幌で、育ちは横浜なんです。小学6年生のときにいわきに来て、中学高校はこっち。大学で東京に出て、また戻ってきた。まあ、もうずっといわきですから、いわき出身みたいなものですね(笑)。
――病院の歩みも伺えますか。
昭和49年ぐらいだったと思いますけれど、父が開院しました。主に精神科の単科病院としてやってきたんです。父は僕が二十歳の頃に他界しているので、一緒に働くことはできませんでした。平成7年に病棟をオープンして、そのときぐらいから認知症に力を入れてきた、という感じですね。いわきでは早いほうだったと思います。

環境を整える。行動を、問題にしない
――四倉病院の、認知症に対する取り組みの特色を教えてください。
うちは結構、重たい認知症の方が多いんです。ですから、とにかく環境づくり。それと、職員にあんまり行動障害や問題行動に対して過度に問題視しないような教育。この二つを中心にやってきました。
――「環境づくり」というのは、具体的にはどういったことでしょうか。
病棟の整備、清潔に保つ、お風呂にきちんと入れる、丁寧に接する。当たり前のことを当たり前にやっていく、ということです。そういう基本的なところですよ。
――もうひとつの、「問題行動を過剰に問題視しない」というのは。
たとえば歩き回っている方がいても、それなりに見守っていて、転倒しなければいい、という感じですかね。「ダメでしょ」みたいな声をかけたり、病室から離れてはいけないときつくルールを決めたり、そういうことはしないということです。
――長年の経験の中で、たどりついた考え方なのでしょうか。
徘徊などの問題行動をあんまり抑えつけても、良いことないんですよね。薬も、使いすぎると今度は動けなくなってしまったり、副作用みたいなものが目立ってきます。使わないというわけではないですけれど、そんなにいつまでも使い続けることのないように心がけています。必要なときだけ適切に、ということです。

三つのセンターで、役割を分ける
――認知症疾患医療センターとしての役割は、どうお考えですか。
僕たちは、あくまでも舞子浜病院の補完という形を意識しています。この地域の精神科病院の中では、舞子浜病院さんがやっぱり一番忙しいし、一番の大黒柱。少しでもその助けになれば、という思いでやっています。その思いは、舞子浜病院の先生方にはお伝えしています。
――今回、石井脳神経外科・眼科病院が3つ目のセンターに加わりました。これまでの舞子浜病院と四倉病院という体制に、診療科目の違う病院が入られたことは、どうご覧になっていますか。
良いと思います。僕たちにはできないアプローチ、例えばMRIを使った検査ができますし、新薬もやってらっしゃる。石井脳神経外科・眼科病院さんでしかできないことだと思うので、市民の皆さんにとっても、ありがたいんじゃないかなと思います。

三十年で、変わってきたこと
――平成7年からですから、三十年目になります。振り返って、変化はどう感じられますか。
だいぶ認知症自体も認知されてきたのかな、という思いはあります。今では考えられませんが、昔は「ボケ老人」という言われ方をしていて、認知症のある方が体の病気を併発しても、一般の病院になかなか移せない、うまくいかない時代もありました。今は、認知症をお持ちの方がたとえば骨折したら整形外科で手術をしていただけますし、内科の病気であれば入院して治療していただける。認知症があるという理由で断られることが、少なくなってきました。
認知症の方が多くなってきて、一般の病院でも診ていこう、という意識が出てきたのかなと思います。
――患者さんの数の実感としては、三十年前と今とで違いますか。
ここで診ている数だけを見れば、そんなに変わらない印象です。ただ、精神科病院全体で見れば、入院されている方の顔ぶれは、確実に変わりました。以前は統合失調症の方が多かったのですが、今は減ってきて、代わりに認知症の方が多くなっています。
統合失調症は、お薬がよく効くようになったんじゃないでしょうか。入院をしなくても、外来に通いながら地域で暮らしていける方が増えた。その分だけ、精神科の病院が受けもつ役割が、認知症のほうへ移ってきた、ということだと思います。
四倉という地域を、大事にする
認知症の方が増えている中、市内各地から当院に来られます。当院のできることを提供していっていますが、そんな中、今は四倉という地域を大事にしています。
震災前とは、ちょっと考え方が変わってきました。東日本大震災を契機に、僕自身も当院も以前より、この四倉という地域を大事にするようになりました。
――このあたりも、津波が。
ここから見える、すぐ近くの田んぼの半分ぐらいまで来たんですよね。

入り口の先を、どうつないでいくか
――最後に、市民の皆さんへのメッセージをお願いします。
皆さん、精神科というと敷居が高いというか、構えちゃうと思うんですけれど、そんなことはないですから。予約が取りづらい状況があるのは課題かなと思っていますが、もっと気楽に相談しに来てほしいですね。
認知症かなと思ったとき、だいたいファーストタッチ(相談の入り口)は、かかりつけ医など医療側になると思うんです。なので医療にはタッチできる。だけど、そこから暮らしや介護への接続を、いかにつないでいくかが大事だと思っています。
今後の課題としては、人材の確保。僕たちも、介護福祉士を雇用するのがすごく難しい現状になってきています。生産人口が減っていったときに、この体制をどう守っていくか。人手不足を乗り越え、医療から介護や暮らしにどうスムーズにつなげていけるか。「連携」の重要性が今後ますます高まっていくと思います。

抑えつけない。閉じこめない。清潔に保ち、認知症特有の問題行動が出ても、大騒ぎせず、丁寧に接する。三十年かけて四倉病院がやってきたこと・培ってきたことは、とてもシンプル。なぜなら、認知症は特別な病気ではないのだから。
四倉病院は、これからも地域に寄り添い、当たり前のことを当たり前に、そして丁寧に取り組んでいきます。
四倉病院(認知症疾患医療センター)
いわき市四倉町下仁井田字南追切2-2/TEL 0246-32-5321
診療科:精神科・心療内科・老年精神科・老年内科・内科
病床数:214床(うち認知症治療病棟60床)
外来受付:8時30分〜12時00分
認知症のご相談は、かかりつけ医や地域包括支援センターからのご紹介のほか、お電話でも受け付けています。デイケア、訪問看護、家族教室なども行っています。

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